オープンソース ERP iDempiere(アイデンピエレ)
iDempiere(アイデンピエレ)は、ADempiere(アデンピエレ)の後継となるオープンソースのERPです。
iDempiereの頭文字の"i"は、OSGiの"i"であり、ADempiereとの違いはその名前が示す通りOSGiの仕様を取り入れプラグインによる機能拡張ができるのようになっている事です。
iDempiereは、ERPとして企業の基幹業務を管理するのに必要な機能を備えているだけでなく、業務アプリケーションの開発フレームワークとしても活用する事ができます。そして、プラグインで機能拡張できる事により、業務アプリケーションの実行基盤として、業務アプリケーションのオペレーティングシステムとも言える役割も担える器になっています。
目次
iDempiereとは「GPL(General Public License)2」のもとにソースコードが公開され、ライセンス料が”無料”で使用する事のできる”オープンソース”の”ERP”であり、"業務アプリケーションを開発するためのフレームワーク"です。
ERPとしてのiDempiere
業務的な特徴
iDempiereは商用のERPと比較しても機能的に見劣りしないほどの業務管理機能を提供しています。
- 購買管理、在庫管理、販売管理、生産管理、会計管理、顧客管理など、一連の業務機能が既に実装されている。
- 1企業で導入できるのはもちろん、グループ企業(複数企業)にも導入できる。
- 世界中で使用されておりグローバル対応(多言語対応、多通貨対応)されている。
- 充実した内部統制機能(業務フローの統一、権限管理や操作ログの履歴管理など)。
システム的な特徴
オープンソースとして世界中の人々が開発に参加するのは、有用性がありシステムアーキテクチャが優れている証拠!! その洗練されたシステムアーキテクチャが複雑なERPの実装を支えています。
- Compiere ⇒ ADempiere ⇒ iDempiere(OSGi + ADempiere)と発展している元祖オープンソースのERPの系譜。
- OSGiのプラグイン構造による機能の拡張性の高さとアプリケーション辞書とモデル駆動アーキテクチャを中心とした、柔軟性と開発生産性の高さ。
- クラウド環境でも利用できる(レスポンシブデザインにも対応)。
業務アプリケーションの開発フレームワークとしてのiDempiere
iDempiereはオープンソースのERPですが、その本質は業務アプリケーションの開発フレームワークです。iDempiereはERPとして多くの業務管理機能を提供しているだけでなく、業務アプリケーションの開発フレームワークとして、業務アプリケーションを開発するうえで必要となる様々な機能を提供しています。それらの機能を活用する事で、業務アプリケーションを生産性高く開発する事ができます。
iDempiereの業務管理機能の全体像
iDempiereの業務機能の中心となるのが「販売管理」、「購買管理」、「在庫管理」、「生産管理」、「会計管理(財務会計/管理会計)」、「顧客管理(CRM/SFA)」の6つです。
購買管理
「購買管理」では「発注管理」で仕入先に商品を発注し、「入荷管理」で発注した商品の受入を行い、「仕入請求管理」で仕入先から送られてきた請求書を管理します。「仕入請求管理」で債務が認識され、「支払管理」で債務の支払いが行われ、最終的に「出納帳管理」で預金出納帳に記帳し、実際の口座残高との整合性を保ちます。
在庫管理
「在庫管理」では「棚卸」と「在庫評価」が行え、在庫管理に関係する決算処理が行えるようになっています。そして、倉庫間の「在庫移動」や足りなくなった在庫の「在庫補充」が行えます。販売目的ではなく、社内で消費した在庫は「社内使用在庫」として費用処理(在庫調整)する事もできます。商品Aと商品Bを1つの袋につめて商品Cという新たな商品を作成するような、セット商品を作成する機能もあります。
販売管理
「販売管理」では「受注管理」で得意先からの受注を処理し、「出荷納品管理」では倉庫から商品をピックアップし、出荷処理を行い、納品先の検品まで管理する事ができます。「売上請求管理」では、売上を計上するとともに請求書を発行し、債権管理を行います。「入金管理」で債権の消込み行われ、最終的に「出納帳管理」で預金出納帳に記帳し、実際の口座残高との整合性を保ちます。
生産管理
iDempiereには標準機能として組み込まれいている「Manufacturing Lite」とプラグインとして提供されている「Lebero Manufacturing」の2つの生産管理があります。
会計管理(財務会計/管理会計)
「購買管理」、「在庫管理」、「販売管理」の一連の処理の裏では自動で仕訳が起票されており(以下、自動仕訳)、それらの仕訳を集計して「会計管理」で色々な分析軸により集計した管理会計レポートを作成する事ができます。そして、「会計管理」では、一般会計仕訳(GL仕訳≒振替伝票)として、決算整理仕訳などを起票できるようになっており、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表も作成する事ができます。
顧客管理(CRM:Customer Relationship Management)
iDempiereの「顧客管理(CRM:Customer Relationship Management)」は「取引先マスタ」を中心にして「リクエスト管理」と「見込顧客管理」の機能を提供しています。
「リクエスト管理」は顧客の要求やクレームをiDempiereのマスタやトランザクションデータと結びつけて管理し、社内で共有する事ができます。得意先からの取い合わせの履歴管理なども行える事から、小規模なコールセンターなどにも活用できます。
「見込顧客管理」はいわゆる営業支援システム (SFA: Sales Force Automation)と言われる機能です。
iDempiereのシステム構成
OSにLinux、データベースにPostgreSQLを選択する事により、iDempiereに係るソフトウェアのライセンス料を"無料"にする事もできます。
業務アプリケーションの開発フレームワークとしてのiDempiere
iDempiereは、"データを入力する画面"と"入力したデータを処理するビジネスロジック"、"処理したデータを確認するレポート(帳票)"の3つの機能を中心に業務を処理し、管理するシステムです。ここからは、この3つの機能の開発方法を概要的に説明します。
iDempiereの開発イメージ
iDempiereは業務アプリケーションの開発フレームワークとして、コーディングは基本的にビジネスロジック(データ処理ロジック)部分に集中して行えばよく、ビジネスロジック以外の業務アプリケーションを作成する上で汎用的に必要となる機能は既に用意されており、それらの機能を活用する事で生産性高く開発する事ができます。
データ入力画面の開発
iDempiereはウィンドウと呼ばれる汎用的なデータ入力画面と、フォームと呼ばれ非定型の入力画面を作成する事ができます。
ウィンドウ(定型入力画面/標準入力画面)
ウィンドウはパラメータ設定だけで作成する事ができます。データを格納するデータベースのテーブル定義に、ウィンドウを作成するためのパラメータ設定を加える事でiDempiereが自動作成します。簡単なデータ入力画面であれば、数10分程度で作成する事ができます。
業務管理上必要なデータを入力する画面は、ほとんどこのウィンドウで作成する事ができます。
フォーム(非定型入力画面)
ほどんどのデータ入力画面はウィンドウで作成する事ができますが、ある特定の業務においては特別なデータ入力画面が必要になる場合があります。そのような場合はフォームによりデータ入力画面自体を開発して、iDempiereに組み込むことができます。
ビジネスロジックの実装
iDempiereではデータを登録・更新・削除時に独自のビジネスロジックを実装する事ができます。そして業務アプリケーションとして日次や月次のバッチ処理を実装する事もできます。
データの登録・更新・削除時のビジネスロジックの実装
iDempiereでは、1つのデータベースのテーブルに対して1組のモデルクラスというJavaのクラスを作成する事で、データを登録・更新・削除時にビジネスロジックを実行する事ができます。
プロセス(バッチ処理)としてのビジネスロジックの実装
iDempiereではバッチ処理の事をプロセスと言い、データ入力画面(ウィンドウ)やデータ検索画面、メニューツリーなどから実行する事ができます。プロセス自体は、ビジネスロジックとしてJavaでコーディングする必要がありますが、バッチ処理の実行条件を入力する画面はパラメータ設定だけで作成する事ができます。プロセス実行のログの記録と出力も、予めiDempiereで用意されているメソッドを使用するだけです。
レポート(帳票類)の開発
iDempiereではレポート(帳票)を開発するために、「オンラインレポート」、「会計レポート」、「ジャスパーレポート」の3種類のツールが提供されています。
オンラインレポート
オンラインレポートでは、管理及び分析のためにデータを一覧表示する"一覧レポート"と、取引先に証票とする送付する"定型レポート"をパラメーター設定で作成する事ができます。
会計レポート
会計レポートは、財務部・経理部のパワーユーザー向けのレポート開発ツールです。レポートの表示対象となるデータは仕訳のデータに限られますが、ERPとしてリアルタイムに貸借対照表や損益計算書が作成できるのはもちろん、管理会計として多次元分析レポートも簡単に作成する事ができます。
ジャスパーレポート
ジャスパーレポートはオープンソースのビジネスインテリジェンス(BI: Business Intelligence)ツールであり、帳票作成ツールです。iDempiereでは、ジャスパーレポートの帳票レイアウト作成ツールであるJaspersoft Studioで作成したレポート定義を取り込んで、出力する事ができます。
私たちがiDempiereをソリューションに使用する理由
私たち株式会社オープンソース・イーアルピー・ソリューションズが現在提供しているソリューションは主にiDempiereを使用しています。私たちがオープンソースのERPを使ったソリューションの第1候補としてiDempiereを選択しているのには次のような理由があります。
ERPとして機能の豊富さ
ERPシステムとして紹介されているソフトウェアは有料/無料、オープンソース/非オープンソースを問わず色々ありますが、その中にはERPと呼ぶには機能が足りないものも少なくありません。iDempiereは、Compiereの頃より考えるとオープンソースのERPとしては、元祖とも言える歴史があり、ERPとして必要とされる機能が備わっています。
開発生産性の高さとシステムの柔軟性
iDempiereは、オープンソースのERPとして長い歴史がある一方で、ERPとしては後発の部類に入り、システムアーキテクチャとしては洗練されたものになっています。足りない機能があった場合でも、それを開発する生産性の高さと、システムの柔軟性は他の商用ERPと比較しても優れていると言えるでしょう。
ERPとしてではなく、業務アプリケーションの開発フレームワークとしても使用できるほど開発生産性が高く、柔軟性のあるシステムアーキテクチャになっています。
完全コミュニティー運営によるオープンソースのERP
オープンソースのプロジェクトは数えきれないほどありますが、その中でも有名なオープンソースには、オープンソースとしてコミュニティーは存在するものの、特定の企業がほぼ独占的に開発しソースコードを公開しているようなケースも少なくありません。
特定の企業が独占的に開発する事は、資金やプロジェクト運営、マーケティング的な側面で大きなメリットがあります。しかし一方で、そのオープンソースを支えるコミュニティーの意向を無視するような事を行う場合もあります。過去にCompiereが商業化の方針に舵を切り、コミュニティーから見放されたのは苦い経験です。しかし、残念な事に同じようなケースは他のオープンソースでも散見されます。
はじめはオープンソースとして支持を集め、ある程度有名になった段階で、有料版と無料版とで機能を分けたり、ライセンス料を値上げしたりする事はよく行われている事なのです。
iDempiereは、完全なコミュニティー主導で運営されており、何より"Free"である事に高い誇りを持っているプロジェクトです。この"Free"には"無料"という意味もありますが、それより"自由"という意味の方がiDempiereプロジェクトにとっては重要です。Compiereの苦い経験を踏まえて、iDempiereプロジェクトは特定の企業に縛られない自由を誇りとして運営されています。特定の企業が関与しない事でマーケティング活動などマイナスな面もありますが、特定の企業に振り回されず安心して使えるメリットがあります。
iDempiereのプロジェクトが"自由"であるために、iDempiereプロジェクトでは透明性も大切にしており、プロジェクト運営の情報は公開され、だれでも参加する事ができるようになっています。
開発言語がJavaである
システムを使用する企業側から考えると、そのシステムの開発言語がなんであろうと関係ないと思うかもしれません。しかし、開発する側から考えると技術者の確保という面では、非常に重要です。そして、実は使用する企業側にしても、ベンダロックインを避けるためにも重要なのです。その点でJavaの技術者は非常に多く、私たちがiDempiereをソリューションの第1候補とする理由の1つでもあります。
システム環境はすべてオープンソースで構築する事ができる
iDempiereのシステム環境は、OSやDBなどのミドルウェアを含めてすべてオープンソースで構築する事ができます。iDempiereのコミュニティー自体が、使用する技術はオープンになっているものに拘って使用しています。
オープンになっているからこその安心感
iDempiereでは、コミュニティー運営でも、使用する技術においても透明性を大切にしています。日本では、OSやミドルウエアレベルではオープンソースの活用が積極的に行われるようになってきましたが、アプリケーションレイヤーではまだ心理的な抵抗が強いように思われます。
しかし、iDempiereプロジェクトのように、ここまで透明な運営がされていればそれほど不安に思う事は無いはずです。反対に、商用業務アプリケーションのようにソースコードや不具合の情報などが隠ぺいされている不透明な方が不安に思えてくるのではないかと思います。
技術の蓄積と経験がある
日本でのオープンソースのERPの導入実績は、少しずつですが確実に増えています。その事例の多くは、iDempiere/ADempiere/Compiereです。この技術の蓄積と経験があるからこそ、私たちは提供するソリューションの第1候補としてiDempiereを選択しています。
資料:低コスト経営を実現するためのiDempiereの活用法
低コスト経営を実現するためのオープンソースのERP iDempiereの活用法を、途中にiDempiereの機能紹介やデモを交えて紹介しています。